弱い私で、ごめんなさい




    わたし、もう駄目なの
















    氷上 

















    手が冷たくなるのは初めてではないけど、「刺すように痛い」と感じたのは今日が初めてだ。

    何度息を吹きかけても、私の指先の血液の巡りが良くなる事はなかった。




    「・・・・」



    朝の7時。

    完璧に凍った地面、白く濁った雲。


    それに加えられた外気の冷たさ。



    その中を、私は雅治の家の前で立っているだけだった。





    「・・・・、何しとるん」







    立ちつくしていた私は彼の声を聞いて、慌てて振り返った。

    そう言えば玄関のドアの音がしたな、とぼんやりと考えて雅治の方を見た。




    「窓から見たらお前さんがおるから、びっくりしたぜよ・・・」



    「うん、ごめん・・・あの、おはよう」



    「ん、ああ、おはよう」




    うまく言葉が紡げない私に、疑問を持ったように雅治は言葉を返した。




    「で、こんな朝っぱらにどうしたんじゃ?」



    「・・・・」



    「まだ学校に行く時間でもないじゃろうに」







    雅治は取りあえず制服は来ているという感じで、ネクタイも締めて居なかった。

    たぶん、こんな早い時間に外に立っている私を見て家から出てきてくれたんだろう。




    口を開く勇気が出ないことと、

    そんな事が重なって、私は申し訳なさが募っていた。






    「お前さん、手、冷たい。・・・とにかく家ん中入るぜよ」



    「いっいいの・・・!」




    「・・・・」




    「ただ、・・・言いに、きたの」




    私の悴んだ指を覆う様に握る雅治の手を、私は弾き返した。







    「・・・言いに、きたの・・・」


















    ────お願い  次の言葉がちゃんと出てきますように



    唇が震えることもなく、声が途切れることもなく、涙腺が弱くなってしまう事もなく。



    感情も何も無く、人形のように





    ただ、




    私はあなたに ”さよなら” を言いたい。
























    「・・・・もう、別れよう」



    「・・・・・」





    下を向いたままで私は言うから、雅治がどんな顔をしたのかなんて知らない


    知りたくない



    見たくない。






    でも、せめて、喜んだ顔だけはしないで



    せめて、一言でもいいから私を引き留めてほしい



    その後で思いっきり突き放してほしい







    「・・・・そか、」




    「・・・・ッ・ごめ・・っ・・ん」












    言葉が出てこないのは、私が弱いから



    あなたは私よりも、他の女の子と微笑み合っているから





    わたしとの時間よりも、何倍も、何十倍も、何千倍も、





    あなたはやさしく微笑んでいたから










    私は知ったんだよ、雅治。


    雅治は、あの子といたほうが絶対幸せなんだって






    お互いに、それぞれの新しい恋をしよう?










    「・・・・分かった」




    「・・・・・っ・・」






    ああ


    泣かないって心に決めておいたのに


    私の弱さが暴れ出して、涙がいっぱいいっぱい零れてくる





    それを隠すように抱き締めてなだめてくれた雅治





    その存在も私の中で霞んでいく


    滲んでいく

















    「ごめん・・・」






















    ぎゅっと、音が鳴るほどに

    雅治の手が私の身体を抱きしめた




    わたしも、ぎゅっと


    雅治の制服を握りしめた。













    今度は、この暖かさで


    あの子を抱きしめてあげて



    この雅治の匂いも、温度も、息遣いも



    わたしのものじゃないから








    こんどは私じゃない、別の子を包んであげて

























    凍った道路の上に落ちた涙と、少しの後悔と、大きな嫉妬が


    溶けて  流れて  どこかに散って




    雨になって落ちてきても



    それが私にだけ降り注ぎますように







    お願い


















    end







    ──────────────────

     お久しぶりです
     
     なかなかテンションあがらないままの
     夢はだめですね;;

     あちゃ〜!って感じです


     自分とは違う女の子に好意を寄せる
     仁王くんの様子に気づいてしまった
     主人公さんです

     うーん・・・人を好きになるのは

     なんだか難しい、ですよね・・・

     うーむ・・・


     090119