「これ、落ちたぜよ」
「・・え・・?」
学校での昼休み、廊下でのこと。
友人と会話しながら歩いていた私に、誰かが声をかけた。
あわてて振り返る私に「ん、」と短く言葉を発する彼の手には
何かストラップのようなものが収まっていた。
「へ?・・・えっと・・」
私は訳も分からずに手を出した。
チャラ、という音とともに私の手のひらにおちるもの。
・・・あ、れ?私の携帯につけてたストラップだ・・・。
私は驚いてその人の顔を見上げた。
「何驚いとるん。お前さんが落としたの拾っただけじゃけど?」
「え、あ・・!ああ!なるほど・・!」
やっとここで現状を理解した。
なるほど・・彼は私の落し物を拾ってくれたのか。
「えっと・・・ありがとう!」
「別に礼言われるほどの事じゃなかよ」
「ううん!これ友達にプレゼントしてもらったものだから・・・ほんとありがと!」
「そか。・・まぁ気をつけんさいよ」
そう言って去って行った後ろ姿、
銀髪の 仁王雅治君。
ト メ ド ナ ク
同じクラスの仁王雅治君は、なんかちょっと浮いてた。
それは別に変な意味でもなんでもなく、ただ中学生っぽくないのだ。
そう、静かでクールであんまり笑わないし
・・・ってか、私はそんな彼とあんまり話した事もないから
彼のことを詳しくは知らないんだけども。
とにかく、そんな彼が親切にも私のストラップを拾ってくれたことに
今でも驚いているのだ。
「・・・・図書室寄って帰ろう・・・」
ケータイをパタンと閉じて、そう呟いた。
HRの終わった教室は、みんなの下校の用意の音で満ちている。
実は明日から期末テストが始まるのだ。・・・ああほんと憂鬱だなとか思いながら、
部活もないし、家に帰ってもまともに勉強しない私は
これを機に図書室でテスト勉強でもしようと考えた。
・・・本気で明日ある数学のテストがピンチなんだよね、・・・はぁ・・・
「ちゃんバイバイ」と私に手を振るクラスメイトに手を振り返して
私は教室を後にした。
*
「・・・・・」
───数学って一体何のためにあるんだろう。
学校の図書室に入って、数学の教科書をひらいて15分足らず。
そんなことばかり私は考えていた。
因数分解とか連立方程式とかその他もろもろのややこしい公式とかとか
はっきり言って日常で使わないものばっかり
・・・・・ホント、一体何のために・・・・
苦手な数学は頭がパンクしそうで
ため息をつきながら窓の外の空を眺めた。
快晴ではないけれど晴れ渡った12月の空。ちょっと鉛色が混ざってる。
(そういえば、仁王君っていっつも授業中寝てるよね・・・・
・・・なのになんであんな数学とかできるんだろう・・・)
ぼんやりそんなことを考えた。
同時に、授業中机に突っ伏した彼の姿を思い浮かべる。
「・・・・」
仁王君はたいてい授業中は寝ているのだ。
なのに数学のテストとか、いつもトップで。
才能なのか、生まれ持ったセンスなのか、なんなのか・・・・
なんにも得意教科の見当たらない私にとってはすごく羨ましいことだ。
「・・・・・」
またまたボケっと考えながら私はケータイのストラップに眼をやる。
今日仁王君が拾ってくれたストラップ。
落としたものを拾ってくれることなんて
別に特別なものでも何でもないのに。
ただ、”ありがとう”で済ませばいいだけの話なのに
*
私が学校の玄関を出たのは、もう外がすっかり暗くなってしまった後だ。
やっぱり12月になると日が落ちるのが早い。おまけに寒い。
首元に巻いたマフラーと、手に付けた手袋を冷たい風が突き抜けた。
「・・・うう、寒い・・・」
制服のブレザーのポケットに思わず手を突っ込んでしまいたくなる寒さだった。
今年もまた寒い季節がやってきたんだなぁと心の隅っこで思う。
玄関を出、校門へ向かうために一歩一歩歩いて行く。
「・・・・・」
もう夕日すら帰ってしまった暗い空。
街の光だけが輝く夕闇の中、校門のところに誰かが立っていた。
私は歩きながらちらっとその人に眼をやって、そして立ち止まった。
・・・・仁王君だ。
「・・・・・」
間違いなかった。
暗さのせいであの銀髪は霞んでいたけれど、その姿はまぎれもなく仁王君だ。
マフラーに顔をうずめるようにして、
私と同じように彼もまた、手のひらをポケットに入れていた。
「・・・・あ、に・・仁王君・・?」
「・・・・?」
何故か知らない。
気づいたら声をかけていた私。
そんな私に彼は無言でこっちを見た。
「・・えっと・・だ、誰か待ってるの?」
「ん、か。」
「うん・・・」
「いやな、ちょいと柳生を待っとるんじゃよ」
「あ、そ、そうなんだ・・・」
””なんて
初めて名前を呼ばれたもんだから、
なんか無駄に緊張してしまう私。
「そういうお前さんは今まで何しとったん?」
「私?私は・・うん、ちょっと明日のテストに向けて数学してて・・」
「ほう、勉強熱心なんじゃの」
「ぜっ全然!結局途中からはボケーっとしちゃってたし」
「はは、まぁ勉強なんてそんなもんよ」
そう言った仁王君は 笑った。
初めて仁王君とこんなに話して笑顔を見た。
なんでかな。
「お前さんはもう帰るんか?」
「あ、うん。」
「そっか、もう暗いきに気をつけて帰りんしゃいよ」
「うん。ありがとう・・・それじゃあ」
「ああ、またな」
なんでかな。
今の私、心が熱いよ。
仁王君の声が胸に響いて、輝いて
仁王君の笑顔があったかくて、嬉しくて
ストラップのお礼を言えばよかったなという後悔よりも
戸惑いで溢れてた。
「・・・・・」
この、とめどなく溢れる想いは一体なんなんだろう。
私は知らなかった
私は知らないふりをしていた
ああ、そっか
私、君に恋したんだ きっと。
end
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うわーー!本当に久しぶりに夢上げれました・・!
お久しぶりです、管理人です。
前の更新が7月で止まってまして・・
本当に久しぶりすぎてちょっとなんかほんとに
と、とにかく久しぶりすぎて
夢ってこんなのだったのかなぁとMAX心配でざいます。
気づいたら仁王君の誕生日も
サイト3周年の記念も何もしていないことに気がつきました(^о^)
今回は仁王君に恋してしまったヒロインさんのお話
ストラップを拾ってもらった事がきっかけで
その想いに気づけたというお話です。
うーむ、未消化!
091212 夏目