「・・・」



   「あ・・に・・仁王・・先輩・・・」



   夕陽の差す教室、が一人でいる教室へ俺は来ていた。

   はちょうど日誌を書き終わった頃らしく鞄を下げて教室を出ようとしていた。



   「ど・・どうしたんですか・・?二年生の教室まで・・・」


   「ん・・いや・・・ちと通りかかったんでな・・・」



   に小さく聞かれて俺も苦しい言い訳を口から漏らした。

   そうであるにも関わらず、は優しく笑って「そうですか」と答えた。



   「・・・お前さん今から帰るんじゃろ?」


   「あ、はい・・・」


   「もう暗いし送っていくぜよ」


   「えっと・・でも・・・」


   「赤也は・・・今日は用事があるとかで帰ったんよ・・・」


   「・・・・」




   俺が呟くとは少し困ったように顔を俯ける。


   そうして少し経ったあとで、「お願いします」と一礼を交えてそう言った。



   玄関に向かう途中、廊下に響いた俺達の足音が嫌に耳についた。








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   夕日が辺りを照らし薄暗い中で俺達は肩を並べて歩く。

   それはとても遠く久しぶりのことで、どこか懐かしい感覚だった。











   ───俺は数か月前にと恋人関係をやめた。


   理由や弁解なんてしたいとも思っとらん。





   俺と付き合う事では時々つらい表情をするようになった。

   柳や柳生から聞くんは、周りの女子に散々何かを言われたんだ、と。



   つまり、に悲しい顔をさせとったその元凶は俺じゃったんじゃ。



 

   じゃから、別れた。








   「なんだか最近日が沈むのが早いですね・・・」


   「そうやのう・・急に短くなりよったわ。」







    たぶん、俺と別れた後でを慰めたのが赤也だったんじゃろう。


    それで二人は付き合いだした。

    も、笑顔になっていった。


    どうしてと別れたのかと、どうして泣かしたりしたんだと散々赤也に言われて


    と俺は距離を置くようになって、






    でも・・・俺はそれで十分だった。









    溝なんて・・・・そこまではいかなくとも


    小さな傷が俺との間にはまだ残っとる。







    「それにしても今日は夕日がきれいですね・・・!」


    「ん、そうじゃのう・・・久しぶりにこんな奇麗な夕日見た気がするわ。」


    「最近部活が遅くに終わりますしね」


    「ああ・・・ボールに集中しすぎてそんなもん見とる暇もないけぇ・・・

     ぼーっとしとっても真田が「たるんどる!」ってキレるしのう・・・。」



    「クスっ・・・ホントですね」





    昔はこんな会話がよくあった。






    あの頃は俺はを「」と呼んで



    も「雅治」と恥ずかしそうに呼んで





    いたのに







    今、俺の心の中は全部が後悔で満たされとった





    こんなにも好きなまま



    今もこんなにも好きなまま






    未練を引きずるのは、男として最低じゃろうか。








    もう一度を愛したいと思うのは、ただのエゴじゃろうか











    「あ、・・・先輩・・・ここでもう大丈夫です。」


    「ん、そか・・・」




    丁度の家が見える所では立ち止まり言う。

    俺も立ち止まって、精一杯平常を装って言う。





    「・・・・」






    もう、俺のことを「雅治」とは呼んでくれんのかと思えば

    自分自身で情けなくなった。











    『どっ・・・どうしてですか・・・?私・・・』


    『すまんけど・・・もう、終わりじゃよ・・』


    『ま・・雅治・・・どうっ・・して・・?』


    『すまん、もう・・俺の事も名前で呼ばんといてくれんか・・・』



















    守る努力もせずに突き放したこと。




    あの涙を拭いてもやれんかったこと。







    別れを告げたすぐあと、は崩れるように泣いていたと聞いても


    何も、言葉をかけられなかったこと





    俺のせいで傷つけるくらいなら


    手放してしまった方が良いのかもしれん、なんていう浅はかな考え。




    もう遠くに手放せば後悔もしないだろうという甘い考え。



    その考えは見事に外れた。









    「・・・仁王・・せんぱ・・い・・?」


    「・・・・」




    気づいたら俺は、の頬に手を添えていた。

    急にどうしたのかと驚きを見せるは、俺を見上げている。



    夕日が差して影が傍に伸びていく。






    迷いもなく


    前触れもなく












    俺は、と唇を重ねた。














    「・・・・・・」





    それと同時に、が地面に鞄を落とした。


    俺は手を添えたままで、ゆっくりとの唇を解放する。





    「呼んで・・・」



    「・・・え・・・?」




    俺が小さく呟いた。

    とても小さくだと言うのに、はその言葉をそっと拾ってくれる。





    「・・・俺のこと、もう一回名前で呼んでくれんか・・?」


    「・・・・っ」





    自然と俺は、「」と呼んでいた。



    俺の本心が動いた。






    俺の言葉には目を丸くしていた。



    どこかつらそうに俯く。







    「・・・・・」




    格好も何もつかなかった。

    本当に今の俺はただの「未練」の塊でどうしようもなかった。








    時が過ぎていく



    車が通り過ぎて同じように風もそっと傍を駆け抜ける







    「・・・なんて、すまん・・いきなり・・・」



    「・・・・・」




    「キスも・・・すまんかった。忘れて。」





    俺は立ち尽くすに背を向けて逆方向を歩きだす。


    自分の影が長く伸びるのに目を奪われる。






    「・・・・わっ・・・忘れたくなんて・・・ない・・・!」



    「・・・・」






    急に、背後での声が響いた。


    俺は驚いて振り返る。



    の顔に夕日が当たって赤く染まっている。





    幻覚じゃろうか、


    は涙を流していた。






    「まっ・・さはる・・雅治・・・!・・・っう・・」



    「・・・」



    「今でも・・・今でも私・・・好きです・・未練いっぱい・・いっぱい・・!残してしまって・・・」



    「・・・・っ・・」





    は腕で強く涙を拭き取る






    「ずっと・・言えませんでした・・・っ・・・ごめ・・ごめんさない・・

     それと・・ありがとうございます・・」



    「・・・何でが俺に・・俺に礼なんてないじゃろ・・!?」



    「聞いたんです・・私が色んな女の子達に虐められてたから・・だから・・雅治は私を突き放したんだって・・・」





    は首を横に大きく振ったあとで言う。






    「だから・ごめんなさい・・・っ」



    「謝るんは・・こっちじゃて・・・」





    俺はいまだ涙を流すに近寄って、そうして涙を指で拭き取った。




    いつかの、昔の涙と一緒に。








    「ごめんなさい・・・」



    「悪いんは俺じゃから・・・もう、最後に名前呼んでもらえてよかったよ、俺」



    「っ・・・私も・・・名前で呼んでもらえて・・嬉しかったです・・」



    「そか・・・」









    俺はの髪をそっと撫でる




    昔から変わらない



    には非はないというのに、なのには他人の為にこうも泣くのだということ






    




    もう一度だけ






    もう一度だけ俺はに口づけて







    そうしてまた、涙を拭った。

















    夕日は変わらず光を散りばめていた。  










































    もう、戻れはせんけど





    でも






    お前さんが流す涙だけは




    俺がいつでも拭い取るから












    解れ糸











    end




    photo 七ッ森






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    うわぁあああ!梓希 零さますみません・・・!!OTL
    リクいただいてからもう何日もたっているのに・・・!
    あああもうこんなへっぴりな物でよかったのか・・・
    本当にすみません・・!!

    切なく甘いという事で、
    見事に外れてしまいましたvあはは・・(殴)

    もう本当にすみませんーっ!!

    きっとお話の内容が最高に分かりづらかったと思われますので補足を・・
    もともとヒロインさんは仁王君と付き合ってたんですが、
    女の子達の嫉妬からから来る虐めで少しばかり元気がなくなってしまって

    それを見かねた仁王君はヒロインさんとの交際をやめてしまいます

    ダブルでつらい事になると仁王君は知っていながら
    わざとヒロインさんと振ったというか・・・
    それが仁王君の優しさというか・・

    それでそれからヒロインさんの彼氏になったのが赤也んでございます。


    いやもうカオス!


    本当に分かりにくい内容ですみませんでした・・・OTL

    おゆるしくださいませ・・!



    ■76543番ゲッター梓希零さまに捧げます
     リクありがとうございました!
     こんなものでよろしければどうぞでございます;


    長い言い訳読んでくださってありがとうございました!