グラウンドに響く野球部の掛け声
遠くで聞える車のエンジンの音
風の音、
鳥の声
私がペンを走らせる音。
瞬間
「・・・こんな所にいたんだ。」
「あ、恭弥。お疲れ様。」
教室の戸が音を立てて開いたかと思うと
風紀の仕事を終えたであろう恭弥が教室に入ってきた
私はそれと同時に席を立って恭弥の方を向く。
ゆっくりと私の近くまで近づいてくる恭弥。
でも私たちの間にはちょっとした距離。
彼いわく、「群れるのは嫌い」だからね。
「ここで何してたの?」
「うん。ちょっと明日の授業の予習。」
家に帰ってもゴロゴロしちゃうだけだろうと思った私は
今の今まで教室で一人英語の予習をしていた。
さっきまでずっと一人沈黙を通してきたから、なんだか恭弥の声はいつもにも増して心地よかった。
「ふぅん。」
「えへへ。恭弥はもう仕事終わったの?」
「一応終わったよ。」
私の問いに彼は一言しか返さないけど、
でもそんな言葉でも彼の優しさがじんわりと伝わってくる。
・・・初め会った時は喋ってもくれなかったんだもんね、恭弥って。
なんだか可笑しな話。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
私が心の中でくすっと笑っている時
少しだけ私たちの間に沈黙が生まれた。
遠くでは絶え間なく野球部やテニス部の掛け声が聞こえてくる。
放課後の雰囲気はなんだか独特なものだ。
「・・・じゃあ、私も帰ろうかな」
一言呟くように言って、私は机に広げていたノートや教科書をしまい始めた。
そうしたら、
急に恭弥が私の手を取った。
「きょう・・・や・・?」
私は恭弥の方を見る。
彼は相変わらずなポーカーフェイスのままだ。
「まだ帰んないでよ。」
「え?」
「僕といるのが嫌かい?」
「え!?ぜっ全然!」
「なら居て。」
淡々と続く会話。
私は仕方なくストンと椅子に腰を下ろした。
恭弥が掴んでる手の部分が、なんだか倍以上に熱をもっている気がした。
私の心臓も、なんだか五月蝿くなってきた。
顔も、熱い。
「やっとと二人きりになれるんだからね。」
「恭弥・・・・」
「逃げられちゃ話にならない。」
ガタン、
そういう椅子の音がして
恭弥と私のよりはさらに縮まった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
恭弥は鋭い目で私を見下ろして、
私もそんな恭弥を見上げて、
「いきなりどうしたの?」
瞬間、
そういう言葉を私が口にする前に
恭弥が私にそっとキスをする方が断然、早かった。
恭弥の腕に当たって動いた椅子が、ガタリと音を立てる。
遠くでは、静かな風の音。
「きょっ・・・!」
「・・・・何か言いたい事でもあるの?」
私は顔を横に振ると、火照った顔を必死に自分のてのひらで覆い隠した。
「手、どけないと噛み殺すよ。」
「・・・え・・・・」
「そうやって顔隠してたら、キスできない。」
今だ顔を掌で覆う私の手を、
半場無理やりに顔からはがして
もう一度、恭弥に口付けられる。
「・・・っん」
心臓の音が聞えて
グラウンドからは部活中の生徒の掛け声が響いてきて
遠くでは風の音、
鳥の声
赤い夕日
伸びる影
恭弥の温度も、
やさしさも
愛しさも。
この鼓動も、
きっと刹那では終わってしまわないだろう
今日みたいな瞬間をこれからずっと大切にしていけば
それはきっとずっと続くものだから。
どうかこの心臓の音が恭弥には聞えませんように
そう願ってしまった。
...fin
*
080126 noro
(果たしてコレが雲雀さんなのか不明だ・・!)