嗚呼、いつから涙を流す事を忘れていたんでしょうか。
ロスト
「・・・・・」
「骸・・・・・?」
僕は僕の名前を呼ぶ彼女の方を振り返る。
はその大きな瞳を開いて、僕の顔をじっと窺った。
僕はそんな彼女に微笑み返す。
「何ですか?。」
「さっき・・ぼーっとしてたから・・・・」
彼女の言葉に自分でもやっと気付いた。
確かに、先ほどまで少し我を失って気を遠くにやっていたかも知れない。
「・・・・・骸、疲れてるのかなって・・・」
「嫌ですね、大丈夫ですよ。クフフ」
「・・・・・・・・本当に・・?」
「本当です。」
そう言ってもなかなか僕の言葉を信じないのがの性格だ。
まだ僕の顔を心配そうに窺ってきた。
「骸・・・・無理・・・しないで・・・・」
小さな声と共に彼女の細い指が僕の目元に伸びてくる。
そしてそのまま、僕の右目を彼女がそっと触れた。
「・・・・・?」
の指はほのかに温かく、その温度が少しだけ僕の目蓋にも届いた。
の温かさには、いつも負かされてしまう。
「・・・骸・・・・・泣いていいよ?」
「・・・僕が、ですか?」
はポツリと僕に言の葉を投げかけた。
泣く・・・?
この僕が・・・・・・?
「いつも骸頑張ってるの知ってるから・・・・・・・・・
いつもいつも私たちを守ってくれてるの、知ってるから・・・・」
可笑しい話だ。
「泣いていい」と言っている自身が、今にも泣いてしまいそうだ。
「僕は、大丈夫ですよ。」
「嘘は、駄目。」
「嘘などではありませんよ?」
「嘘・・・・・・・・骸の目、見てたら・・・分かるもの。」
そうして、は一粒涙をこぼした。
ポツリ、と僕の腕の上に涙の跡が残っては消える。
「僕の目ですか・・・?」
「そう・・・・いつも骸哀しそうだもん・・・・・」
「だから、我慢なんてやめて・・・・・・・・
・・・・・・泣いて、いいんだよ?」
が触れた僕の瞳から、
一筋、何かが零れ落ちる。
それが頬を伝って
音も立てず、降った。
「全く、・・・あなたの前だと僕も格好がつきませんねぇ・・・・」
たまには、こうして涙を流してみるのも
いいかも知れない。
そう言ってまた、
僕は涙を流した。
最後に流した涙は、いつだったか
憶えては
いないけれど。
fin...
080129 noro