私はポケットからハンカチを取り出した。
そして彼を起こさないように、こめかみの汗をそっと拭いた。
にも関わらず、彼は起きてしまった。
「あ・・・ごめん・・・・起こしちゃった・・・・・?」
「ん・・・・ええよ・・・・汗かいとったか?」
「あ・・・うんまぁね。・・はい!コレで良かったら使って。」
「ありがとさん。」
私は手を止めて、ハンカチを彼に渡した。
「ありがとう」と言って、笑う彼にちょっとドキっとしてしまう。
電車の揺れる音だけが聞える。
「・・・・なんで汗なんかかいてるの?まだ5月だし・・・そんなに暑くないよね?」
「ん?・・・ああ。・・・・お前さんを追いかけるのに必死になったんじゃよ。」
「へ・・・?」
私、言われている意味がよく分かんないんですけど!?
つまり、この人はストーカーって事ですか!?
そんな大層な事件に巻き込まれてたの!?私ッ!!
「よく・・・・意味が分からないんですけど・・・」
「それは悲しいのぉ・・・」
ホント、よく分かんない。
でもなんだかその人はその時、ちょっぴり悲しい顔をしてたような。
・・・・気のせいかな?
「のぉ。」
「はい?(ホント呼び捨てだよ、コノ人。)」
「好きじゃ。・・・・・好いとぉ。」
「・・・・・・・・え?」
すこし思考が停止した感じ。
いきなり言われた言葉は、「好き」という言葉。
合わせた目が離れられなくなって、
視線を反らしたいのに反らせない・・・・・・・・
好き・・・・
好きって・・・・・隙・・・・とか・・・剥き・・・・とかじゃなくて・・・・・・・
すっすっす・・・・好きーーーー!?!?
「えっ・・・わっわ・・私は・・・・・・・」
心臓の音が聞えた。
ナンパにも順序ってもんがありますから!!!
「彼氏とか・・・・おるんか?」
「い・・・居ないけどっ!!!」
ダメだ!顔がこの上なく熱い!!!!
私は恥ずかしくなって席を立った。
ガタンっ!!!!
と、同時に電車も揺れて・・・・
「きゃっ・・・!!!」
私はバランスを崩してしまった。
(バランスが取れないよーー!!このままだとこの人の方に倒れちゃう!!)
→ もう無理だよ!倒れるしかない!!!
→ ふぬぬっ!!意地でもバランス保ってやる!